利用者:T.kawakami/調査 報告/1

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福島県内公共図書館と宮城県内公共図書館の被害・復興状況聞き取り調査[編集]

エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)谷合佳代子
実施日:2011.5.20福島、5.21宮城

【1】福島県[編集]

<福島県立図書館企画管理部専門司書 吉田和紀さん>[編集]

※前々日の急な会見申し入れにもかかわらず、快諾いただいた。また、予定の時間を超えて長時間の聞き取りに応じてくださり、館内もご案内いただいた。


以下、ヒアリング概要。

  • 県内には59自治体があり、うち図書館を設置している自治体の図書館一覧はhttp://www.library.fks.ed.jp/ippan/sinsai_higai_fukushimaken_library.html
これが被害状況の最新版である。最終確認の日付が古いものはその後変化がないところがほとんど。あるいは、図書館が原発避難区域内にあり、自治体機能が他所に仮移転している。


★地域別被害概況

福島県は東から西へ浜通り、中通り、会津の三つの地域に分かれる。
会津:大きな被害なし
中通り:震度5~6 資料はほとんどが落下。特に郡山市から白河市にかけての建物被害が大きい。
浜通り:被害甚大。図書館に津波被害は無し。浜通りにある8自治体に図書館があるが、そのうち4自治体が仮移転のため機能していない。

★県立図書館の被害状況

現在休館中。7月ごろから開館予定。
重さ5キロ以上ある空調ダクトが天井から10本以上落下。怪我人がでなかったのは奇跡といえるほど幸運だった。一階閲覧室の大きな一枚ガラスが何箇所も割れた。入り口の階段の敷石が剥がれた。入り口天井の庇も落下。本はほとんど落下。地震発生時はカウンター係が利用者に書架から離れるよう声をかけ、揺れが収まってから全員を外に誘導。ただちに閉館。

★県内全体の概況とプロボノ実現の可能性

  • 県内図書館で職員・利用者ともけが人なし。
  • 震災後2ヶ月が過ぎて、ほとんどの図書館が復旧している。
  • まだ休館中の図書館が開館できない理由は、(1)建物被害が復旧していない、(2)図書館が避難所になっていたり、図書館員が復興業務に狩り出されて本来業務ができないから。落下資料を拾うといった人手が必要な作業は終わっている。
  • 図書館じたいに津波被害はなかったが、貸出中の資料が水没している可能性は高い。現況は把握できていないが、いずれ資料不足になるだろう。
  • いわき、南相馬、新地町あたりの図書館ではひょっとしたらまだボランティアの人手を必要としているかもしれない
  • 県立図書館では県内図書館のSOS情報を集約することはしていないし、今後もその予定はない。ボランティア希望者は個別の図書館に直接当たってほしい。
  • 福島県立図書館では現在ボランティアが21人。もともと10人いたのが震災後11人増加。
  • 原発避難圏内の図書館が1年後か2年後に再興するときには一度に大量の人手が必要になる。そのときには情報発信するので救援をお願いしたい。

★希望すること

  • 情報発信する側も窓口をまとめてほしい。たとえば公衆送信権の話が出たときには、日図協ほか複数の機関から同様の趣旨の文書が回送されてきたため、市町村において混乱を生じたところもあった。
  • 県立図書館は7月には開館予定だが、それまでの間、大阪府立図書館などが行っている特例としてのレファレンス受付緩和措置をつづけてほしい・ 
  • 図書館に本を送るという企画もあるようだが、搬送に係る物流体制が整っていないため、福島県立図書館などが迅速な対応を行うのは難しい。目録を作ってもらって受け取り館が自由にピックアップできるようであればありがたい。
  • 「図書館のために」という目的限定の寄付金を自治体に贈るのは難しいだろう。現金はまず無理であり、図書カードというのも難しい。


<福島市ふれあい歴史館>[編集]

アポなし突撃インタビューであったが、館長相当職(館長職はないとのこと)の方が快く応対してくださった。また、受付の職員2人が大変丁寧に応対してくださった。
 ふれあい歴史館は一見したところ「郷土史博物館」と思えるが、博物館ではないとのこと。特徴的なコレクションは民俗歴史資料のほか、「郵政関連資料」である。特に郵政資料は数万点を収蔵している。
 ふれあい歴史館は地震のとき、ガラスの展示ケース3台が倒れて割れた。それは現在ではすべて新しいものに取り替えている。展示品に被害はなかった。職員および来館者にもけが人なし。揺れているときは男性職員がとっさに重い展示品が倒れないよう支えていた。揺れが収まったあとは直ちに閉館。もともと平日の来館者はそれほど多くない。
 県内の被害状況は教育委員会が集約しているのでそちらで聞いてほしい。
 (HPに被害状況が掲載されていないが、という谷合の質問に対して)「その必要はなく、既に問題なく復旧している」とのこと。


<福島県立美術館>[編集]

福島県立図書館に隣接し、建物は一体のものとして設計されている。
 展示品、建物ともに被害はなし。5月上旬まで閉館していたのは、余震が続いていたからという職員の説明。
谷合が展示室で展示品を鑑賞中に震度4の地震あり。展示室の扉が振動によって閉まってしまったが、女性係員が必死に押さえて開いた。


◆◆福島市を訪問して:谷合の感想[編集]

福島県内公共図書館でボランティア活動というのは難しそう。ボランティアに求められている仕事がない。
本を贈るプロジェクトは追求してもよさそうだけれど、集約拠点などが必要(宮城県の話と同じ)。生半可なことでは実現できない。(→5月23日、京都府が10万冊を送ったというニュースが流れた。詳細がしりたい)
常日頃からの図書館員どうしの顔の見える関係作りがいざという時に必要となるようだ。情報収集しようにも図書館への電話はつながらず、図書館員どうしの個人の携帯電話でやっと連絡がとれたという。
震災発生時の避難誘導の方法など、教訓となる点、参考になる点がいろいろある。今すぐは無理でも落ち着いたら災害状況の報告書が作成されると思うので、ぜひ参考にして今度の震災対策の糧としたい。
今回は公共図書館しか聞き取り調査していないので、大学図書館の状況はまた異なるかもしれない。
福島市のみなさんの関心は原発にある。放射線被害の恐怖や不安はいつもつきまとっている。放射線量も福島市はかなり高い。避難地域の図書館が復旧するときには放射性物質の除染をどうするのか、といったことが課題になるだろう。
 ふれあい歴史館では飛び込み取材であったにもかかわらず大変丁寧に親切にしていただいた。
 今回は福島市しか訪れていないので、湾岸部の厳しい状況は目の当たりにしていない。福島市内を見るかぎり、建物被害や道路被害もほとんど見当たらず、震災があったとは思えないほどで、阪神淡路大震災のときとの違いを感じた。見えない放射線のほうが怖いと感じる。
 福島の人はみな親切。居酒屋のママと友達になった。


【2】宮城県[編集]

<宮城県図書館 熊谷慎一郎さん>[編集]

 県内図書館の被害状況は
http://www.library.pref.miyagi.jp/20110311_jishin_miyagi.html


 宮城県内自治体の図書館設置率は60パーセント。


 宮城県の図書館が開館できないのは福島県と同じく建物被害のせいである。特にガラス張りの図書館がガラスを入手するのに困っている。落下図書を拾うといった作業はすでに終わっている。今現在、完全復旧した図書館はない。また、図書館が避難所になっているところなど、本来業務ができない館が少なからずある。
 ★地域別概況


 宮城県は北から南に、北部、仙台地域、仙南地域の3つに分かれる。


 仙南地域:被害が少ないが、そのなかでは角田(かくだ)市立図書館が困難
 仙台地域:仙台市泉図書館がもっとも開館見込みが立っていない
 北部地域:震度7の激震地。建物被害甚大。


 *やはり全体としては津波の被害にあった沿岸地域の被害が大きい。県内では図書館が建物ごと流出した南三陸町図書館の被害が最大で、名取市立図書館、次いで登米(とめ)市立迫(はさま)図書館の被害がもっとも大きいと思われる。移動図書館車が水没したところもある。

 ・沿岸部にある石巻市立図書館、東松島市図書館、気仙沼図書館、気仙沼市本吉図書館は被害甚大であり、このうち石巻市立図書館が避難所になっている。  ・建物の被害が大きくて応急判定で赤紙(危険)と判定された建物部分があるにもかかわらず開館している図書館もある(ただし、赤紙が貼られた建物には利用者は入れない)。住民からの要望が強く、首長や教育委員会からの指示により、開館せざるをえない。  ・移動図書館車を利用した仮開館をかなり多くの図書館が採用している。  ・3.11本震に加えて,4.7余震もかなり多くの被害を生んでいる。特に内陸部の地域では,4.7余震の影響が大きい。湾岸部の津波被害だけではないことを強調したい。

★宮城県図書館の状況    5月13日から開館中。一部立ち入り禁止箇所あり。地盤沈下やガラスのひび割れ破損など残っている。3階からガラスが落下したが、けが人なし。開架書架は紐を巻き付けて落下防止のための措置を執っている。

★宮城県内図書館でプロボノの可能性

・人海戦術でできるボランティア作業は終わっている。いまはもうその段階ではない ・現金を図書館に寄付するのは難しい。ブックトラックなどの備品、消耗品を贈るほうがいい ・被災地に本を贈るならブッカーをかけて消毒用アルコールと一緒に送るぐらいのことをしてほしい。本が感染源になってはならない ・ボランティア活動するというなら、組織を動かしてほしい。個人のボランティアの力でどうこうなるという状況ではない。「東京にいて何かできることを」と思うなら、東京都教育委員会を動かしてほしい。図書館ごとなくなってしまった三陸町に職員と装備を丸ごと派遣するぐらいのことを組織の仕事としてできるように交渉してほしい。 ・本を贈る活動について。避難所が集約され減っていくにつれ、集めた本が邪魔になる。捨てるのももったいないので、避難所から出た不要本と全国から集めた本を一箇所に集約して目録を作り、各図書館に配送してほしい。配送センターとなる倉庫を宮城県北部あたりに借りて作業してはどうか。 ・現在、自分は公務としていかに組織を動かすかを考え上層部と交渉しているが、今後は私的にも活動したいと考えている。 ・検討中の私的ボランティア企画 ①南三陸町図書館跡に行って、流された資料を回収する ②泥の中から写真を回収して洗浄する。 これらの作業を実施するときには個人ボランティアを募りたいので協力してほしい ・ボランティアの力というのが非常に大きいことは理解しているし,ボランティアなしでは復旧作業は立ちゆかないことは実際に目の当たりにしているので,決してプロボノ不要,と思っているわけではない。

★人としての図書館員への支援を要請したい。心を解きほぐすことを <東北大学電気通信研究所図書係長 吉植庄栄さん>

・「がんばろう、頑張れ」と言い続けて2カ月、被災地の図書館員はへとへとになった。このあたりで心を休めることが必要。図書館員の心を癒すことを何か考えてみてもらえないだろうか。

   ボランティアの皆さんは図書館の復興に専門知識を使って協力したい、というスタンスだと思うが、それにはかなりの準備が必要で困難がある。むしろ現場に直面しているこちらの図書館員を物心両面で応援して欲しい。ここでいう物資とは、本とか図書館員らしさを追求したものではなく、図書館員が一人間として助かるもののこと。

心の方は、神戸の震災でも見られたような、一段落ついたところで具合が悪くなるといったことにならないよう、支援してほしい。今、熊谷さんは職責と義務感で、庄子さんは欠けたるものを埋めようとして、毎日馬車馬のように働いている。いずれ疲れがどっと出そうなので、関西に招いて慰労してあげるとか、色々考えてみてほしい。 復興のために何か支援したい方は毎日の仕事をしっかりやって頂き、余力があったら募金活動やダブルワークなどをしてガンガン稼いでもらい、熊谷さんが言っているような「倉庫を借りる」などの活動原資を蓄えて欲しい。その方が「安全靴を履いて、予防注射を接種してボランティアに赴く」というような生々しい話ではなく、身の丈相応になるのでは。    <東北学院大学図書館統括 庄子隆弘さん>

※東北学院大学図書館は株式会社紀伊国屋書店が業務委託を行っている。谷合が庄子さんとTwitterで連絡をつけ会見・手伝いを申し込み、午後から2階開架フロアの配架作業の手伝いをした。

・開架は落下図書のすべてを拾って一通り配架済み。地下1階書庫は、集密書架の修理が必要であり、当面復旧ができない状況である。地下2階書架は、約8割の復旧が終了しており、5月中に復旧の目処が立っている。  ・学内はほぼ復旧済みだが、一部に工事中で立ち入り禁止になっている箇所がある。水道が復旧していない建物もあるので、仮設トイレが設置されている。  ・図書館の入り口に被災状況や復旧作業の様子を映し出す大型テレビモニターを設置している。  ・支援をいただいた人たちのメッセージボードがある。  ・震災関連図書コーナーを作っている。


★★仙台を訪問して:谷合の感想

 宮城県の図書館の状況は福島県よりいっそう悪い。  県立図書館の熊谷さんが休日返上で精力的に被害状況を調査して回っている。大量の写真を見せてもらったが、建物の被害も甚大で、復旧にはかなりの時間がかかると思われる。熊谷さんからはボランティアの申し入れに対してかなり厳しい(あえて厳しい)要望が出された。鉄道も通っていない三陸町に自力で重機を調達して安全靴を履いてやってくるぐらいの覚悟をしてボランティアしてほしいとのこと。ただし、「プロボノの必要性については十分理解しているので、ボランティアが不要とか迷惑といいたいわけではなく、相応の覚悟をしてお願いしたい」という意味と受け止めた。  今後、saveMLAKも含めて大規模プロジェクトの必要があるかと思われるが、とにかく現地に入って個人で動くという可能性がないわけではない。  日図協災害対策委員会および児童図書館研究会三重県支部の要望については福島・宮城に伝言済み。  情報支援に特化しているsaveMLAKの限界およびこれからの活動可能性・資金調達について協議検討を急ぐ必要ありと感じた。  仙台のみなさんも優しい。東北の人たちのやさしさに触れて、大阪から行った谷合は お助けにいったのか助けられたのかわからないぐらい感動して帰ってきた。と同時にそういう感傷的な気分を吹き飛ばすほど現実は厳しいことも痛感した。

★まとめ感想  福島も宮城も、非常時にあって図書館員たちが懸命に仕事をされ、オーバーワークとなりながらも前を向いて進んでおられることに感銘を受けました。福島県立図書館、宮城県図書館ともに急な取材申し入れにも関わらず、快く受け入れてくださったことに感謝しています。東北学院大学の庄子さんは自宅が津波で流されてしまったけれど、現場の統括責任者として不休の図書館復旧活動を続けておられます。東北大学の吉植さんには仙台での移動に多大なご協力をいただきました。  これからはsaveMLAKとして情報支援と同時にプロボノを具体的につないでいく作業が 待っていますが、これがそう簡単ではないことも実感しました。あれこれ迷うならまずは自分の足で現地へ行き、自力でアポをとって動く、その際にできるだけMLを通じて仲間を募って一緒に動けばどうか、とも思いました。このあたり、プロボノを担当して下さる細川さんにご苦労いただくことになるかと思いますがよろしくお願いします。