COVID-19の影響による専門図書館の動向調査(2020/07/04)について

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全国にある専門的な情報を提供する専門図書館の数は千とも二千ともいわれています。

COVID-19の影響は、これら専門図書館にも及び、研究者や市民にとっての情報のインフラとして専門的な情報を得ることが難しくなっています。

研究機関や各種団体等に設置された専門図書館の動向を把握するため、2020年6月11日(木)から7月4日(土)にかけて調査を行いました。

これまで、saveMLAKでは公共図書館の動向調査を行っており、この手法を参考に、公開されている300館の専門図書館を対象に調査したところ、閉館を継続している館は12%、開館は70%でした。16%は状況が確認できていません。

調査の概要

調査回数
1回目
調査期間
2020年6月11日(木)~7月4日(土)
調査方法
ウェブサイトの公開情報を集約(目視)
調査対象
全国の専門図書館、300館
調査主体
調査参加者8人(図書館に携わる関係者を中心にした有志)
調査条件
  • 調査対象には、図書館と図書室が含まれますが、この調査では以後図書館と表現します。
  • 調査対象は、カーリルの図書館データベースに掲載された専門図書館としました。主として、誰でも利用できる”公開型”の専門図書館が対象であり、一般に公開されていない企業内図書館などは含まれません。
  • 『専門情報機関総覧2018』(専門図書館協議会)に掲載されている館については、その掲載番号、面積、座席数を記載しました。
  • 調査開始から終了までの期間で状況は刻々と変化しており、各館の状況については調査時のものです。
  • 「状況」について
    • 「開館」「閉館」の判断は、図書館の表現を優先しました。来館サービスを停止していても遠隔サービスを提供していれば閉館としていない場合があります。
    • ウェブサイトから開館状況が判断できないものは「不明」としました。これには、親組織のウェブサイトに図書館に関する情報そのものが見当たらない場合と、図書館の情報はあるがCOVID-19に関する情報が見当たらない場合の両方が含まれます。
    • 図書館の状況がウェブサイトに掲載されていない場合でも、親組織のCOVID-19関連情報から開館と推定される場合は「開館」とし、開館にカウントしました。
    • COVID-19とは異なる理由で閉館している場合は「別理由」としました。
    • 調査の根拠となった図書館やその親組織のウェブページのうち、可能なものは「Internet Archive」または「archive.today」に保存し、調査時点のページを閲覧可能にしています。

調査結果

7月4日時点で閉館を継続している館は35館(12%)、開館は211館(70%)。49館(16%)は状況が確認できていません(不明)。

なお、「閉館」としていても、遠隔サービス(文献複写、レファレンス等)の提供を明示している館が7館あります。

これを「開館」と合わせると全体の73%は何らかの図書館サービスを提供しています。

※COVID-19以外の理由での閉館が5館

「閉館」でも継続されているサービス

閉館中も継続していたサービスとしては、遠隔でのレファレンス(メール、電話等)、文献複写などが多く見受けられました。

なお、専門図書館の中でも、研究所附属等の図書館は、一義的には内部利用者(研究者等)の研究支援を目的とするため、外部の一般利用者に公開されていてもサービスの提供度合いは館によって様々です。

そのため、ウェブサイト上で閉館と謳っていても内部利用者に対してはサービスを継続している館は多いと推測されます。

しかし、利用対象者別にウェブサイトで案内を出している館は少なく、今回の調査でわかることは限定的と言えます。

「開館」(再開)でも制限されているサービス

再開にあたっては、多くの館が「一部再開」「縮小開館」といった表現で、利用対象者を限定する、開館時間を縮小する、一定時間での入替制をとる、来館サービスを事前予約制にするといった、通常とは異なる形でサービスを提供しています。

  • 再開後も制限されているサービスの例
    • 対面でのレファレンス
    • 閲覧席の利用
    • 視聴覚資料の視聴ブースの利用
    • マイクロフィルムの利用
    • 雑誌・新聞等の閲覧利用
    • パソコン(検索端末、インターネット端末)の利用
    • 国立国会図書館デジタル化資料送信サービス
    • 他機関からのILL受付
  • その他の制限の例
    • 利用対象者や利用目的の制限(一般利用者不可、見学不可、調査研究目的外利用不可等)
    • 開館時間の縮小
    • 滞在時間の制限や入替制
    • 事前予約制による来館サービス

なお、専門図書館ではもともと資料の貸出を実施していない館が多いため、貸出サービスの再開の有無については、個別の確認を行っていません。

COVID-19関連の閉館と再開の時期

今回の調査は、緊急事態宣言が明けた6月に入ってからの調査であり、初回確認時に既に開館(再開)している館も多くありました。

再開日はゴールデンウィーク明けから7月まで大きくばらついています。

※新型コロナ感染症対策として閉館したことが確認できた館は232館

※一度再開した後、再び閉館し再開している館は開始日は初回を、再開日は最後をカウントした

  • 閉館開始日
    • 2月 21館
    • 3月 35館
    • 4月 46館
    • 5月 2館
    • 閉館開始日不明 128館 ※閉館したかどうか不明も含む
  • 再開日
    • 3月再開 1館
    • 4月再開 0館
    • 5月再開 74館
    • 6月再開 75館
    • 7月再開 6館(7月6日時点)

COVID-19対応としての新しい取り組み

施設の中の図書室、図書コーナーなどの位置づけも多い今回の調査対象館では、ウェブサイトに公開されている情報自体が少なく、サービスの提供状況を十分に知ることができない館も多くありました。 そうした中でも、制限された状況下で新しい取り組みを行った例として以下のようなものがありました。

  • 国立教育政策研究所 教育図書館(東京都)
    • 資料遠隔提供サービス【試行】[1] 
    • まだデジタルアーカイブで公開されていない資料でも、申し込みがあればデジタル化して公開する。(著作権保護期間が満了していない資料については文献複写または近隣図書館への貸出(有料)で対応)
  • 野球殿堂博物館 図書室(東京都) 
    • バーチャルレファレンスサービス[2]
  • 地球市民かながわプラザ(あーすぷらざ)映像ライブラリー(神奈川県) 
    • セット貸出企画(まだきっと出会えていない本がある!「本の福袋」を貸出します)[3]
    • 今だけ企画!「本の福袋」をドライブスルーで借りちゃおう[4]6月16日(火)~6月21日(日)限定で実施

今後に向けて

専門図書館は、一般に公開されていない館も多いという特徴があります。

このため、公共図書館、大学図書館、学校図書館などに比べ、網羅的な調査のために図書館情報のリスト(データ)を用意することが難しく、今回のような一斉調査という取り組みも困難であることが予想されました。

今回の調査では、最も入手しやすく扱いやすい基礎リストとして、専門図書館のうちOPACを公開している館が収録されているカーリルの図書館データベースを使用しました。

この結果、OPACを公開している専門図書館について、状況を把握することができました。

しかし、専門図書館においてはOPACの公開率は公共図書館や大学図書館に比べれば依然としてかなり低いため、カーリルの図書館データベースにも収録されておらず、今回の調査対象だけでは専門図書館全体の状況を調査するという目的は達成できていません。

今後は、より広く協力者を募り、また、専門図書館関係の諸団体・機関にも協力を得て、調査対象範囲や調査項目を広げていきたいと考えています。

また、いまだ「当面の間」として閉館(閲覧室への立ち入りのできない状態)が続いている館も少なくありません。いつ再開するのか、閉館のまま遠隔サービス等を拡充していくのか、または恒久的なサービス休止などにつながるのか、といった動向も継続的に調査していく必要があると思われます。

調査データの公開

調査データは、ライセンスをCC-0として公開します。